先日、NHK BSプレミアム の「ヒューマニエンス 40億年のたくらみ」という番組の「人間を生んだ力」のテーマの一部をご紹介しました。
このテーマもすごく面白いと思ったのですが、少し前に放送された「死」をテーマにした回のものが、私にとってかなり衝撃的で、心にずっと残っています。
なので、見ていない方がいたら、この回の放送の ”「死のシステム」とは何か?”の一部を紹介したいと思います。
- スティーブ・ジョブズのスピーチ
- 大きな落とし穴
- テロメアは癌化を防ぐために機能している
- テロメアが一カ所だけ短くならない場所とは
- 老いた者は退場して、新しい者に道をゆずる
- 有性生殖ができる前は死が存在していなかった
- おばあちゃん仮設
- 最後に
スティーブ・ジョブズのスピーチ
死を望む者はいない
天国へ行くことを望む人でさえ
そのために死にたいと思わない
それでも、死は我々すべてが共有する運命だ
それを逃れた者はいないし
今後もそうあるべきなのだ
なぜなら、死は生命最大の発明なのだから
(引用:スティーブ・ジョブズ氏のスピーチ)
これは、スタンフォード大学でスティーブ・ジョブズ氏が行ったスピーチです。
その時より1年前に癌と診断されたジョブズが、自らの死への考えを語ったものです。
これは、独自の人生観を述べた言葉ですが、科学者たちは今、この言葉を示唆するような死のシステムを実際にみいだそうとしています。
人の寿命は、テロメアが関係しているといわれています。
テロメアは、細胞の核の中の染色体の、その末端部分にあります。
その役割は染色体に納められたDNAを保護するキャップのようなものです。
人間の体には37兆もの細胞があるといわれ、それが常に細胞分裂を繰り返しています。
テロメアは細胞が分裂する度に、どんどん短くなっていきます。
テロメアが短くなっていくと、分裂が滞り、細胞分裂が出来なくなり、細胞が老化していきます。
老化した細胞が増えていくと、臓器、筋肉の機能が低下し、体が衰えて死に向かっていきます。
これが本当に死のシステムなのだろうか。。
大きな落とし穴
1985年、単細胞のひとつ「テトラヒメナ」から、テロメアを修復する酵素が発見されて、最近、それが人でも老化のカギを握っているかもしれないと考えられました。
そして、そのことが研究されるようになりました。
マウスの皮膚の細胞に操作を施し、テロメアを修復する働きを促すと、皮膚の老化が治まったが、組織が癌化してしまった。
いったいなぜこんなことが起きるのか?
人の細胞を培養すると、50回くらいで分裂して老化して、死んでしまう。
ところが、テロメアが短くならない操作をすると、永久に細胞は分裂し続ける。
しかし、そうすると 細胞は癌化してしまうのです。
そして小林教授は
これは不老不死を許さない強い「死のシステム」があるのではないかといいます。
テロメアは癌化を防ぐために機能している
テロメアは癌化する前に、細胞の分裂を止める役割があるといいます。
もし、この細胞のテロメアを修復すると、DNAにエラーを持った細胞が、際限なく分裂してしまいます。
その中から、がん細胞がうまれると、それも増殖することになります。
そして、それが分裂し続け、本人が死んでしまう。
テロメアを抑えて、老化スイッチが入らないようにすると、細胞は分裂し続け、癌のリスクがどんどん高くなっていくことになります。
つまり、テロメアが癌になるその前に、細胞分裂を抑制するように作用するのかもしれない。
テロメアが一カ所だけ短くならない場所とは
実はテロメアの長さは、年齢より個人差の方が大きいといいます。
それは、生活習慣によるもので、テロメアの短くなるスピードが早まる原因は
- 飲酒
- 紫外線
- 極度なストレス(適度なストレスは別)
- 喫煙
などです。
また、短くなったテロメアを伸ばすのに、テロメラーゼという酵素があります。
人の体では、基本的に遺伝子にブロックがかかっているので、このテロメラーゼは働きません。
しかし、生殖細胞だけは、このテロメラーゼが強く活性化されて、万全に修復されていて、テロメアが短くならないのです。
だから、精子と卵子のテロメアは、全く短くなっておらず、真っ新な状態が保たれています。
老いた者は退場して、新しい者に道をゆずる
死は古き者を消し去り、新しい者への道をつくる
(引用:スティーブ・ジョブズ氏のスピーチ)
小林教授は言います。
生物は約40億年前に地球上に、たった1個の細胞が誕生して、それが現代の私たちになるまで進化し続けてきた。
途中で死んだら、途絶えてしまうから、死なない細胞があったはず、
それはが生殖細胞。
「生殖細胞」が不死だからこそ、生物は進化した。
受け継ぐためには、その「生殖細胞」は老いてはいけない。
生殖細胞は命のバトンを次に渡さなければならないので、テロメアが短くなってはいけない。
私たちは生殖細胞を次世代に渡す「乗り物」として、生きているということなのです。
有性生殖ができる前は死が存在していなかった
単細胞生物はひたすら細胞分裂していくことで、ずっと同じ遺伝子が増えていくだけになります。
有性生殖(雄と雌)は新しい遺伝子を作っていくことで、多様性をつくること出来ます。
生物学上、自分が分裂して増えるだけだと不利になるとされ、
新しいものと交われば、多様性をつくっていけます。
そして、多様性を維持すると、親よりも子供の方が優秀になっていけます。
多様な子孫を残して、親は死んで退場していくということになるのです。
おばあちゃん仮設
多くの生物は生殖期が終えたら、すぐに寿命が尽きてしまいます。
人間はそうではなく、生殖可能期間が過ぎても、長い年月を生きています。
人が生殖期間を終えても、長い年月を生きているのは、「おばあちゃん仮設」のためだと言われています。
残った能力を子孫の世話に振り分ける。(生物学者:ジョージ・クリストファー・ウィリアムズ)
ある年齢で、出産に伴う死のリスクを回避して(女性の閉経)、そして自分の子供や他人の子供まで育てるようになったというのです。
人の余生が長いのは子孫に知恵を授けるため。
文化の継承には時間がかかるから、
そのために寿命が長くなったのかもしれない。
おばあちゃん、おじいちゃんが長生きな家系は子孫が生き残りやすく、寿命がのびたのではないか。
と教授は言います。
最後に
この放送を見て、本当に不思議な気持ちになりました。
私が、つまらない事を悩んだりしている間にも、私の細胞はテロメアをすり減らし分裂をし続けているのです。
不謹慎なことですが、世界中を混乱に陥いらせたコロナウィルスも、ウィルスなのだけれど、ただひたすらに遺伝子を残す目的のみで、私たちの細胞の遺伝子と変わりないのかもしれない。
とにかく地球上の生物が、環境、ライバルに打ち勝って、なにがなんでも「遺伝子を残していく」とゆう生命の力に圧巻されました。
※この番組のご出演の方のお言葉を、私なりにまとめて引用させて頂きました。ご了承ください。